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食材の効能
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■薬膳料理は日本の造語
 薬膳の「薬」は「広い意味での食物」を表し、「膳」は食事の意味で、季節や食べる人の体調に合わせ、食材や生薬(漢方薬の原料)を組み合わせた料理のことです。
 『薬膳料理』という言い方は、1980年代に日本で健康食として名称を付けたもので「膳」に料理という意味が含まれているため、重言になります。
 薬膳の端緒となる考え方は、自然界にあるもの全てを食物ととらえ、それぞれに異なる効能が存在するという考え方に基づくものです。
 薬膳には『薬食同源』が基本にあります。薬食同源とは「すべての食べ物に薬効がある」「誤った食事は病を生み、正しい食事で病は自ずと癒える」という考え方です。
 これが、日本に伝来して以降『医食同源』という言葉になったと考えられます。
 中国では、古代から、健康維持・健康促進のために、個々人ごとに異なる体質や臓器に適した食物をどのように摂ることが効果的かを重視した料理研究がされて来ました。
 直接関係があるわけではありませんが、秦の始皇帝が、永遠の命に執着して「不老不死の薬」を探せと命令した話は有名で、その当時から、食材が持つ効能研究がされていたことは、容易に想像できます。

■料理(食物)は健康維持のための薬と同じ。それを司る者は高位の医師として処遇された
 食・薬・医の数千年の歴史から見ると、まず食からの「食薬同源」「食医同源」の思想が生じ、次に「中医薬学(中国で発達した医学のことで、5世紀はじめのころに日本に伝わる。東洋医学とも呼ばれている)」が発展したと言えます。
 紀元前1000年頃の周王朝の時代には、官職として『食医』という位が設けられ、日々膳(食)を通して帝王の健康を管理調整する者として、医療職の中では最も高い位とされていました。
 中国で最も古い薬学書とされる『神農本草経』には、食物または生薬を上品(じょうぼん)、中品(ちゅうぼん)、下品(げぼん)に分類し、その効能、用い方が記されています。それには、
●上品 いつ、なんどき、毎日でも食してよいもの。
●中品 具合の悪いときに食するもの。
●下品 病気になったときに食するもの。
とされました。
また、医者を工と呼び、医者にも上工(じょうこう)、中工(ちゅうこう)、下工(げこう)という分け方をし、
●上工は、病気にかかりそうなことを事前に察し、未病のうちに健康の調整をする。
●中工は、病気になってから、治療を施す。
●下工は、併発していた病気や根本の病の原因に気づかず、重病になってから手を施す。
といわれました。
つまり、上品(じょうぼん)を扱う上工(じょうこう)が最もすぐれた医者であるということから、日常の食事で健康を調整し、未病にあたる『食医』が、最も位が高く、敬意が注がれました。

■「食性」と「食味」
 薬膳では、全ての食物を「食性」「食味」という独特の効能で分類します。
「食性」は、
・ 体を温める「温性」「熱性」
・体を冷やす「寒性」「涼性」
・どちらでもない「平性」
 に分類します。
温熱性の食物は内臓や血管の動きを活発にし、血液の流れを良くします。寒涼性の食物は、体内で発生するさまざまな炎症を抑え、解毒や利尿を促進させる働きがあります。
 「食味」では、
・発汗を促し気の巡りを良くする「辛味」
・栄養を補う「甘味」
・汗を引き締め尿漏れなどを防ぐ「酸味」
・熱や余分な水分を排泄する「苦味」
・しこりや腫れ物を軟らかくし血圧を上げる
「鹹味(塩味)」
 の効能に分類します。 (「五味と四気」参照)

食物 温熱性 寒涼性
穀類 もち米、赤米、インディカ米 小麦、大麦、はと麦、そば、ひえ ※うるち米は平性
野菜 生姜、玉ねぎ、にんにく、葱、わさび、蕪、紫蘇、南瓜など 茄子、大根、れんこん、セロリ、胡瓜、苦瓜、冬瓜、トマト、レタスなど
果物 桃、栗、あんず、さくらんぼ、ざくろ、ココナッツ、きんかん、ライチなど 柿、バナナ、スイカ、メロン、梨、苺など
肉類 羊肉、鶏肉、牛すじ(牛肉自体は平性) 合鴨肉、牛タン、馬肉
魚・海藻類 海老、いわし、あじ、鮭、穴子、鮎、太刀魚など 蟹、昆布、海苔、はまぐり、はも、あさり、しじみなど
調味料等 黒砂糖、酢、酒、菜種油など 白砂糖、塩、しょうゆ、ごま油、バター、オイスターソースなど

 中医学の考え方で「熱者寒之 寒者熱之(熱のある人は冷やし、冷えている人は温める」という理論があります。
この考え方が基本ではありますが、暑い時季は温熱性の物は食べない、冷え症だから寒涼性のものは食べられないというわけではなく、組み合わせることによって料理そのものの食性を調節すれば良いのです。
 暑い季節には、胡瓜や冬瓜など身体の熱を冷ましてくれる寒涼性の食材が美味しくなります。また喉ごしが良いそうめんやうどんなどの原料となる小麦も寒涼性です。
冷えやすい体質の方、また、冷房で身体が冷えている時は温熱性の生姜、葱、紫蘇などの食材を一緒に摂ることで冷ます力を穏やかにすることができます。
 また、食物の持つ効能は、【旬】の時が最も高くなることから、季節に応じた旬の食べ物を摂取することも、おいしく、理にかなった健康づくり と言えます。

 薬膳の考え方は、右のように、様々な思想と結びつき、発展しました。バランスの取れた状態(=元気/崩れると「病気」となる)を目指すための料理を求めて研究が続けられており、理論や食材の効能をわきまえた人に「中医薬膳師」として認定される資格制度もあります。


■陰陽五行思想との結びつき
 食・薬・医の歴史の中で、『黄帝内経』「素問」臓気法時論篇第二十二において“五穀為養、五果為助、五畜為益、五菜為充、気味合而服之、以補益精気”という文があり、食の医療作用を明確に解説しています。
五穀:麦、黍、稗、稲、豆;
   穀類は主な食材として五臓を養う。
五果:スモモ、杏、大棗、桃、栗;
   果物は五臓の働きを助ける。
五畜:鶏、羊、牛、犬(馬)、豚;
   肉類は五臓を補う。
五菜:葵、藿、薤、葱、韭;
   野菜により五臓を充実させる。
 このように、多くの食材をバランスよく組合せることで身体の精気を補うことが出来ると解釈されてきました。さらに食材によってそれぞれ対応する臓腑に特定の効果があることも経験的に認められて来ました。
 それは、やがて、様々な思想と結びつき、総合的な分析を伴うものへと発展を遂げました。
 その代表的な思想が『陰陽説』と『五行説』です。

■宇宙の真理を説いた『陰陽(いんよう)説』
 陰陽は、宇宙に存在するあらゆる事象を 「陰」と「陽」に当てはめた中国古来の哲学で、体質も「陰」「陽」の証(しょう・反応や症状のこと)、に大きく二分されます。
 全ての事象は、それだけが単独で存在するのではなく、「陰」と「陽」という相反する形(例えば明暗、天地、男女、善悪、吉凶など。前者が陽、後者が陰)で存在し、それぞれが消長(例えば、1年で見ると、春分の日をゼロとした場合、夏至には「陽」が極まるが、秋分には戻り、冬至には「陰」が極まって、やがて春分を迎える)をくりかえすという思想です。
 この繰り返しとなる。
 右の「太極図(たいきょくず・陰陽太極図)」は宇宙、森羅万象のすべてが陰陽の対立する要素で成立する様子を示し、それぞれの小さな円は、「陰の中の陽」と「陽の中の陰」を示します。「陰」と「陽」はきっぱり分断されるものではないため曲線で描かれ、相対的で常に流動していることも表しています。
 人体の部位や食物なども「陰」と「陽」に分けて考えられますが、どちらがいいというわけではなく「陰」「陽」のバランスを保つことが大切とされます。

■五行思想との結びつき
「五行(ごぎょう)説」とは古代中国で発祥した思想で、自然界や人体といったあらゆる事象を「木」「火」「土」「金」「水」の5つの概念で考えます。
 これらのバランスを変化させて、人体なら全体のバランスの取れた健康体を目指すということになります。
 方角、色彩、味覚、臓器、感情なども五行で、それぞれの要素が影響し合うと考えるのです。東洋医学では五行が診療や薬学の基準に、薬膳でも「五味」や「五臓」などの概念を使います。
 「陰陽説」の起源は、古代中国の神話に基づくようですが、「五行説」の起源については東西南北の四方に中央を加えたものという考え方(東‐木・南‐火・中央‐土・西‐金・北‐水)と、肉眼で観察が可能な五つの惑星、五星(水星・金星・火星・木星・土星)に淵源があるとされます。

■「相生(そうせい)」と「相剋(そうこく)」
「五行」では、5つの要素を「相生」と「相剋」の関係で変化させながら調整すすると考えます。
 それぞれの要素同士がお互いに影響を与え合うという考え方で、相手の要素を補い、強める影響を与えるものを「相生」、相手の要素を抑え、弱める影響を与えるものを「相剋」と言います。
 《五行相生》
「木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生じ、水は木を生ず」という関係を『五行相生』と言います。 木は燃えて火になり、火が燃えたあとには灰(=土)が生じ、土が集まって山となった場所からは鉱物(金)が産出し、金は腐食して水に帰り、水は木を生長させる、という具合に木→火→土→金→水→木の順に相手を強める影響をもたらすということが「五行相生」です。
 《五行相剋 》
 「水は火に勝(剋)ち、火は金に勝ち、金は木に勝ち、木は土に勝ち、土は水に勝つ」という関係を『五行相剋』と言います。
 水は火を消し、火は金を溶かし、金でできた刃物は木を切り倒し、木は土を押しのけて生長し、土は水の流れをせき止める、という具合に、水は火に、火は金に、金は木に、木は土に、土は水に影響を与え、弱めるということが「五行相剋」です。
  五行の「相生」や「相剋」の関係は、互いに強弱をつけたり機能を高めるほか、時には支配し合いバランスを取り、「五味」(味、食材全般の作用)を考えるときも役立ちます。
 この「五行説」を身体に応用したのが、「五臓」の考え方です。「五臓」は「肝(かん)」「心(しん)」「脾(ひ)」「肺(はい)」「腎(じん)」という五つの機能系に分けられます(西洋医学の臓器だけを意味せず、広義で使われる)。「五臓」のそれぞれが、木 = 肝、火 = 心、土 = 脾、金 = 肺、水 = 腎という対応関係のうえに成り立っており、相手を助けたりコントロールしたりしながら、お互いのバランスを保っていると考えられています。

【陰陽五行説(論)】
 陰陽説と五行説を組み合わせて、「陰陽五行説(論)」と言います。
 基本は、木、火、土、金、水、(もく、か、ど、ごん、すい)の五行にそれぞれ陰陽二つずつ配するもの。
 甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、壬、癸(こう、おつ、へい、てい、ぼ、き、こう、しん、じん、き)
 訓読みでは(きのえ、きのと、ひのえ、ひのと、つちのえ、つちのと、かのえ、かのと、みずのえ、みずのと※かのえ、かのと、は金を指す)
 陰陽は語尾の「え」が陽、「と」が陰。語源は「え」は兄、「と」は弟。「えと」の呼び名はここに由来するもので、「きのえ」、は「木の陽」という意味です。
 旧暦では、これを十二支と組合わせており、季節に対応する五行(五時または五季で)は、春が木、夏が火、秋が金、冬は水としました。土は、四季それぞれの最後の約18日(土用)を指します。
 また、西洋的な考え方が取り入れられる以前の方角、時間の表し方の概念なども、これを元にして作られたものとされ、わが国でも、長く使用されてきました。
※歴では十干十二支を組合わせて循環します。10×12だと120通りになるはずが、実際の組み合わせは30通りしか無く、これで一巡するため「還暦」と言います。なぜ、60通りか、興味のある方は国立国会図書館のサイトをご参照下さい。
五行  よみ

(もく)
音読み 甲(こう) 乙(おつ)
訓読み きのえ きのと

(か)
音読み 丙(へい) 丁(てい)
訓読み ひのえ ひのと

(ど)
音読み 戊(ぼ) 己(き)
訓読み つちのえ つちのと

(ごん)
音読み 庚(こう) 辛(しん)
訓読み かのえ かのと

(すい)
音読み 壬(じん) 癸(き)
訓読み みずのえ みずのと
暦に適用した場合、これを十干(じっかん)と言い、十二支(じゅうにし;子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥)と組合わせて年を表しました。《甲子(きのえね)、乙丑(きのとうし)など》

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